よしおさん(97歳)との出会い

よしおさんとの出会いは、まず奥様とのご縁から始まりました。

寝たきりとなり、介護が必要になられた奥様の訪問看護・訪問リハビリがスタートしたのが、スタイルとの最初の出会いです。

娘さんの細やかな気配り、目配り、心配り。
家族みんなで整えられた温かな介護生活の中で、奥様はその命を全うされました。

そして奥様を見送られたあと、今度はよしおさんご自身の体調管理のために、スタイル訪問看護ステーションの訪問が始まりました。

「こんな元気な私に、何が必要かな。」

こんな元気な私に、何が必要かな。

そう笑いながら話されるほど、よしおさんは年齢を感じさせない方でした。

97歳になっても、興味を失わず、学ぶことをやめない。
電動車椅子を使うようになってからも、地域のさまざまな学びの講座へ参加され、毎日の脳トレも欠かさない。

そして驚くのは、その行動力だけではありません。

長年書き続けてこられた日記をもとに、奥様との旅の記録や日々のエピソードを、パソコンを自在に使いこなしまとめておられました。

ご自身の人生の出来事も、一つひとつ丁寧に振り返り、言葉にして残していく。

その姿は、「人生を最後まで編集し続ける人」のようでした。

お仕事の中で経験されたドラマチックなエピソード。
そして何より、奥様との恋の話。

看護師でありながら、時には孫のように、時にはお茶飲み友達のように。

週に一度の訪問は、体調を確認する時間であると同時に、
よしおさんが歩んでこられた人生の物語を、一緒に振り返る時間でもありました。

最後まで、人の迷惑にはならない

「よしおさんには、ひとつ強い信念がありました。

「最後まで、人の迷惑にはならない。」

爪切りひとつとっても、ぎりぎりまで「自分でやる」と決めておられました。
目が見えづらくなり、ようやく「お願いしようかな」と私たちに委ねてくださったとき、そこには“頼ること”への覚悟も感じました。

「自分でできるところまで、自分でやる。」

その思いを、私たちはできる限り尊重し、支え続けました。

自然に沿って、命が閉じていく時間

そして迎えた、人生の最終章。

食事量が少しずつ減り、眠る時間が増え、動ける範囲が少なくなっていく。

それはまるで、自然の中の植物が、季節に沿って静かに枯れていくような時間でした。

無理なく、抗わず、自然に沿って命が閉じていく。

その流れを、私たち看護師もそばで見せていただきました。

意識が遠のく中でも、よしおさんには最後まで願いがありました。

「下の世話は、誰の手も借りたくない。」

その思いをできる限り叶えられるよう、ご家族と何度も話し合いながら、最後の時間を整えていきました。

人は、最後の時間さえも選べるのかもしれない

私は訪問看護をする中で、感じています。

もしかすると、人は最後の時間さえも、自分で選べるのではないか、、、と。

誰のそばで旅立ちたいのか。
どんな空気の中で、最後の呼吸をしたいのか。

家族が少し席を外した瞬間に旅立つ人。
「この人が来るまで待つ」と言わんばかりに、その人が来た瞬間に息を引き取る人。

たくさんの最期を見届ける中で、人には「生まれる力」だけでなく、
「命を着地させる力」も備わっているのだと教えていただきました。

平穏死という旅立ちは、そのことを強く教えてくれます。

矍鑠とした、愛深い紳士

よしおさんもまた、ご自身の命を、娘さんに、そして私たちスタイルの看護師一人ひとりに手渡しながら、旅立っていかれました。

その先には、先に待っておられる奥様や、ご友人たちがたくさんいらっしゃって、この世の思い出話の集いが、日々お忙しいのかもと思わせられます。

「矍鑠(かくしゃく)」という言葉があります。

その言葉がぴったりの方でした。

最後まで凛としていて、遊び心があって、笑顔が素敵な紳士。

奥様を亡くされたあとも、ロケットペンダントの中には、ずっと奥様の写真が入っていました。

その姿に、よしおさんの深い愛を感じました。

私たちは、そんなよしおさんのことが、本当に大好きでした。

家族ではない。でも、単なる医療者でもない。

十数年にわたり、奥様、そしてよしおさん。
さらに娘さんを含めたご家族まるごとと関わらせていただけたこと。

それは、訪問看護ならではの醍醐味です。

最後の最後まで見届けることができる。
その過程で、ご家族との結束が生まれ、チームになっていく。

家族ではない。でも、単なる医療者でもない。
その間にある、新しい関係性。

それを育てていけるのが、訪問看護の魅力です。

そして私たちは、その時間の中で、命がけで教えてくださるたくさんの幸せを分けていただいています。

生きること。
死ぬこと。
命を使い切って、旅立つこと。

命そのものを。

この仕事は、本当にありがたい仕事だと、改めて感じています。