
家族との穏やかな暮らしを願って
けいじさんは、70代の男性です。
昭和の父として、奥さまや娘さん、息子さんのために、さまざまな仕事をしながら家族を支えてこられました。
定年を迎えてからも、「大好きな奥さまと穏やかに暮らしたい」と仕事を続けながら、夫婦の時間を大切にされていました。
そんなある日、突然の脳血管疾患。
入院治療とリハビリを経て、ご自宅へ戻られるタイミングで、私たちは訪問看護とリハビリで関わらせていただくことになりました。
けいじさんには、もともと糖尿病があり、長年、ご自身で血糖測定やインスリン管理をされてきました。
けれど、脳血管疾患の影響で手先の動きに変化が生じ、これまで当たり前にできていたことに、少しずつ難しさが出てきました。
今の力に合わせて、安全に続ける

ここで私たちが考えたのは、
「以前と同じようにできるようになること」ではありませんでした。
スタイルの行動指針は、
幸せを願い、目的を持って、その人に合わせて支援を組み立てること。
糖尿病管理の目的は、
“マニュアル通りに完璧にできること”ではなく、
けいじさんの今の力に合わせて、安全に、安心して、療養を続けられることです。
そのために、まず行ったのが「環境づくり」でした。
インスリン注射や血糖測定に必要な物品を、毎回「何が必要だったかな」と考えなくてもよいように、必要物品の写真を並べたランチョンマット形式のシートを作成しました。
その上に物を置くだけで準備が整う。
覚えることにエネルギーを使うのではなく、
「安全に行うこと」に力を使えるようにするための工夫です。
一人で完璧に、よりも、みんなで安全に
また、在宅生活では、本人だけで完結することが必ずしも最善とは限りません。
これから年齢を重ねていく中で大切なのは、
「一人で完璧にできること」よりも、
家族や周囲のサポートを受けながら、安全に療養を続けられること。
そのため、ご家族やヘルパーさんなど、看護師以外の支援者の方々にもわかりやすいよう、個別の支援資料を作成しました。
誰が見ても、同じように見守れること。
誰が関わっても、安心して支えられること。
それも、在宅医療における大切な看護の役割です。
さらに、在宅医の先生とも密に連携しながら、
インスリンの種類や回数、薬の調整についても細やかに見直しを行いました。
病院では成立していた方法が、
そのまま自宅生活に合うとは限りません。
その人の暮らしの中の正解をつくる

大切なのは、
「入院中の正解」を持ち帰ることではなく、
「その人の暮らしの中の正解」を一緒につくること。
それが、訪問看護の醍醐味だと私たちは感じています。
看護学生の頃、実習で一人ひとりに合わせた個別性を考え、工夫した経験。
その「その人のためだけの看護」を、大人になった今も本気で追求できる。
それが、訪問看護という仕事の面白さであり、奥深さです。
その人だけの“生きる”を支え続ける
けいじさんがこれまで守ってきた「家族との暮らし」。
その続きを、これからも安心して歩んでいけるように。
私たちは、医療者としてだけでなく、
人生の伴走者=プロフェッショナル・パートナーとして一人ひとりの想いに耳をすまし、同じ景色を見にいくことで、その人だけの“生きる”を支え続けます。

